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モランボン大学の秘密 ――北朝鮮エリートハッカー養成機関を調査

北朝鮮サイバー戦力養成機関として言及される「モランボン大学」、しかしその実態は不明なところが多く、ネット上にも情報はほとんどありません。本記事では、北朝鮮エリートハッカー養成機関の設立、概要、経緯などに関する調査結果を紹介します。

謎に包まれた北朝鮮サイバー人材育成機関

謎に包まれた

北朝鮮サイバー人材育成機関

モランボン大学は、北朝鮮に複数あるサイバー人材養成機関の1つです。他には金正日大学、金策工業総合大学、平壌科学技術大学、金正恩国防大学などが知られています。そのなかでもモランボン大学は、もっとも情報が少ない教育機関であり、英語版Wikipediaにも記事がありません。

「モランボン大学」の語は、北朝鮮に関するニュース記事や、脱北者からの証言でときどき登場します。

モランボン大学の設立は1990年代?

中国ニュース・環球網記事によれば、モランボン大学は1990年、時の指導者である金正日によって設立されました。一方、韓国報道Daily NKによれば、1997年の設立とされています。

北朝鮮では、80年代からサイバーテロ・サイバー戦に関する整備が進められており、大学はその目標を実現するために建設されました。

なお、名称モランボンとは、牡丹峰と呼ばれる北朝鮮平壌市北部にある丘のことです。古代・高句麗時代に要塞として建設され、以後景勝地として市民の憩いの場となっています。

所在地はモランボンではなく、平壌の朝鮮労働党本部のすぐ近くにあるそうです。

モランボン大学は、既存の教育機関である美林(Mirim)大学の後継として作られたとされます。

朝鮮労働党作戦部の直属部門として始まった

Daily NKによれば、モランボン大学はサイバー戦技術において国を教導する立場にあるとされ、設立時は朝鮮労働党作戦部の管理下にありました。

朝鮮労働党作戦部は、かつて存在した党の情報機関であり、スパイ工作・暗殺・工作船などを担当していました。日本人拉致事件の実行部署とも推定されています。

作戦部は、2009年に他部門と統合され朝鮮人民軍偵察総局となりました。

教育プログラム

モランボン大学は、以下の領域におけるエキスパートの養成をその目的としました。

  • データ処理
  • 暗号解読
  • ハッキング
  • プログラミング言語
  • 盗聴
  • 格闘技および射撃

2009年時点の情報によれば、新規学生の受け入れは毎年30名程度で、5年あるいは6年の課程履修後、朝鮮人民軍少尉に任官します。

ハッキング技術を学ぶ一部の学生は、卒業前に海外研修を行います。その研修とは、中国・瀋陽の七宝山ホテル(Chilibosan Hotel、北朝鮮資本の四つ星ホテル)から、実地のハッキングを行うことです。

ハッカー部隊? 核疑惑?の北朝鮮資本ホテルが、中国のホテルとして復活(ニューズウィーク日本版)

https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2018/05/post-10252.php

中国からハッキングをすることで、モランボン大学の学生は北朝鮮IPアドレスを使わずに活動できます。また、かれらの活動を、中国国内の他のハッカー集団のなかに埋没させることができます。

全国から秀才を集めて教育

全国から秀才を集めて教育

エリート教育の推進

北朝鮮には近年まで、一部を除いてインターネット環境が存在せず、そもそもPCを持っている国民もほとんどいませんでした。

このため、政府が全国から優秀な子供を集めて教育するという形態をとっています。

北朝鮮の小学校カリキュラムにおいて、算数と科学でよい成績の子供が、最もコンピュータに適性があると考えられています。

亡命者の証言によれば、優秀な子供は、海外の数学コンテストなどにも出場しています(この亡命者は、香港の数学コンテストに出てそのまま亡命しました)。

このようにスカウトされる秀才の中でも、最も優れたプログラマーがモランボン大学に送り込まれます

指導者による直接指揮の下、2012年から2014年のあいだに、北朝鮮のサイバー戦要員は約3000名から5900名に倍増しました。2021年時点では6800名前後と推定されています。

北朝鮮サイバーセキュリティ教育レベルは侮れない

北朝鮮は経済的・技術的に非常に立ち遅れた国です。そのため、核開発技術やサイバー戦能力について過小評価されるきらいがあります。

しかし、専門家の多くは、北朝鮮のサイバー戦遂行力を真剣に考えています。秘密に閉ざされた北朝鮮の技術力を測定するため、専門家は様々な兆候を観察しています。

各国が高校生を集めて競う国際数学オリンピック(International Mathematical Olympiad, IMO)では、北朝鮮選手は約20年間に金メダル22個、銀メダル36個を獲得しています。

2016年には、ACM国際大学対抗プログラミングコンテスト(ACM International Collegiate – Programming Contest、ICPC)において、北朝鮮大学生が米スタンフォード大学生を破っています。さらに、2019年には金策工業大学が銀メダルを獲得しています。

サイバー戦争とハッキング技術を学ぶモランボン大学の学生は、こうした表に登場する北朝鮮学生たちよりもさらに優れた能力を持っていると考えられます。

サイバー戦に従事する卒業生たち

サイバー戦に従事する卒業生たち

2009年のDaily NKインタビューでは、モランボン大学卒業生は情報機関韓国連絡官事務所に派遣され、サイバー攻撃や情報収集に従事しているとのことです。

また、モランボン大学で教職につく者、中国に派遣され高度技術を習得する者、朝鮮コンピュータセンター(KCC)(北朝鮮国営のソフトウェア開発会社)の職員となる者もいます。

なお、大多数のコンピュータ技術者は、北朝鮮国内のインターネット環境整備に動員されるようです。

まとめ

  • モランボン大学はサイバー戦力整備のため1990年あるいは1997年に設立された
  • サイバー人材養成機関の中でも、特別優秀なエリートハッカーの養成に特化
  • 学生受け入れは年30名程度、全国から数学・コンピュータの天才を集めている
  • 卒業生は、北朝鮮サイバー攻撃部隊やサイバースパイ活動部門において活躍していると想定される

金正恩統治が10年を超え、現在では国民の間にスマホが普及し、急激に情報化・韓国をはじめとする国外情報流入が進んでいるといわれています。北朝鮮におけるサイバー人材政策は今後も変化していくことが予想されます。

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